ドクダミの花

 そこだけしか咲かない、そこだけしか棲(す)めない、そこだけしか似合わない花。
 華やかで人目を惹(ひ)く花もいいが、日陰に咲く花にも心を惹(ひ)かれる。
 毎年、梅雨の時期になると長屋の裏手でひっそりと愛らしい花を咲かすドクダミの花があった。
 幼い頃に筋肉炎を患い切開後の傷口にドクダミの葉を塗り込められた経験を持つためか雨の中に咲く白い花を見かけるとついつい愛(いと)おしくなってくる。
 ドクダミは悪臭ともいえる独特の芳香を放ち、名前からしてもイメージはよくないが実は毒を抑(おさ)えるという「毒矯(どくだ)み」からこの名が付けられた。
 ドクダミは十の薬効があるといわれ、別名「十薬(じゅうやく)」としても知られ万能薬とされてきた。
 昔日(せきじつ)のある日、ドクダミ茶にするのであろうが、おばあちゃんと孫娘が小川でドクダミを洗っていた。
 最近ではそんな光景はすっかり見かけなくなってしまったが初夏を彩るドクダミの花を見かけると微笑(ほほえ)ましい二人の姿が思い出される。
 多分、ドクダミを陰干しにしていたお袋の姿と重ねて見たからでもあろう。
 そこには貧しい時代の先人達の知恵が偲(しの)ばれる。
 いつもの場所で一年に一度出会う花、それがドクダミの花であるが梅雨時になるとあの女の子はもう立場が変わっているのかな、などと思い出すことがある。
 日陰であろうが日向(ひなた)であろうが人もまた自分の居場所は自分で見つけ、自分なりの花を咲かせたい。