梅林

 この季節には「光の春」とか「山笑う」という素敵な言葉がある。
 この時期はまだ枯れ野や山裾(やますそ)はしんと静まりかえり、冬の装いを崩そうとしないが穏やかに晴れた日などは張りつめていた空気が和らぎ、心身ともに緊張感がほぐれる。
 そんなある日、あまりの天気に誘われて何度か出かけたことのある梅林の様子を見に出かけた。
 山裾に近づいてみるとかすかに淡いぼんぼりのような色づきを見せているが時期尚早(しょうそう)は拭(ぬぐ)えない。
 それでも場所によっては紅白の梅の花がほころび、蕾や半開きの花をびっしりとつけている。
 近づいてみるとかすかな芳香さえも漂ってくる。
 海からの風はまだまだ冷たく潮の香りも無いが、遠く潮目に跳(は)ねる光はキラキラと輝き春近しを予感させる。
 百花に先駆けるのは梅とされているが、足元には柔らかく白っぽい蓬(よもぎ)が負けじと息づいている。
 日溜まりの畦(あぜ)にも青い瞳の犬ふぐりが点々と愛らしい花を覗かせている。
 春浅しのこの時期は正に胎動(たいどう)と息吹の季節であり、春本番への期待感が膨(ふく)らんでくる。

   「犬ふぐり 星のまたたく 如くなり」 虚子