くす若葉

 日々成長する若葉が、目にも心にも沁(し) み込んでくる季節。中でもひときわ目を惹(ひ) くのが楠(くす) 若葉である。
 楠(くすのき) は病害虫に強く樹齢数百年という大樹となるものもあり、神社では神木として崇(あが) められている。
 澄んだ空に青々と聳(そび) える楠の大木は活力と希望を与えてくれるが、その足元には枯れ落ちた古葉が哀れを誘い、人の世の縮図を見ているかのようである。もし、楠や千年杉が魂を持って人間社会を眺めてきたとするならば、さぞかし醜(みにく) い人間模様も見てきたことであろう。
 そんな目で眺めていると、両大木には神木になりえる風格があり「人の道」を諭してくれるような威厳(いげん) さえ感じる。
 ドイツで、空高く聳(そび) える五月の木(Maibaumマイバウム)というのを見たことがある。これは高木に飾りをつけて遅い春の到来を祝うと同時に、恋の季節になった喜びや厄除けなどを願う神事を兼ねた行事に使用される。
 日本では大樹に対して畏怖(いふ) や精霊を感じ、魂が宿るとして見立てるが、「樹木信仰」とか高い所(天)に神が宿るという観念は万国共通なのかもしれない。
 楠は成長が遅いが大きく育つところから、コツコツと頑張っていればやがては大成成就(たいせいじょうじゅ) するということで、これを「楠学問(くすのきがくもん) 」と呼んでいる。
 学問だけではなく、何事においても「継続は力なり」であり、何かを続けていれば誰でもそれなりの域には達するものと思われる。

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