蝙蝠

 初夏の黄昏(たそかれ) どきは暮れそうで暮れず、夕暮れが長いのが特徴である。
 昼間の緑(りょくふう) 風がハタと止み、ゆっくりと暮れなずむ中で何処からともなくジイーというような虫の声が夏近しを予感させる。
 そんな風情に不釣り合いなのが、せわしなく不規則に飛び交う蝙蝠(こうもり) である。
 これからの季節は、気温と水温の上昇に伴って水生昆虫の羽化が盛んとなり、水辺では「ブヨ柱」や「蚊柱」を見かけるようになる。これらの餌を求めて活発になるのが蝙蝠であり、雨気模様(あまけもよう) になるとその数が増えるような気がする。「ツバメが低く飛べば雨」といわれるが、同様に蝙蝠も雨の指標となるのかもしれない。
 蝙蝠といえば吸血鬼を連想させ、姿・形からしてもイメージは悪いが、日本ではかならずしもそうではなかった。
 もともとは蝙蝠のことをカワホリと呼び、川を守る(カワモリ)とか、蚊を屠(ほふ) る(カホフリ)が語源とされ、幸せを運ぶ使者として親しまれてきた。
 「コウモリ、コウモリ草履(ぞうり) が欲しけりゃ飛んで来い」などと囃(はや) し、天気占いの下駄飛ばしと同じような遊びもあった。
 コウモリ傘の名前は、蝙蝠が羽を広げたように見えるところからこの名が付けられたとされ、あの勝海舟が乗った咸臨丸(かんりんまる) がアメリカから日本に持ち帰った。

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