春景色

 ♪菜の花畠に入日薄れ、見わたす山の端霞(はかすみ) ふかし…
    夕月かかりてにほい淡し♪
 この曲の歌詞を聴くと、「菜の花や月は東に日は西に」の句を思い浮かべる人も多いかもしれないが、実はそうではないようだ。
 お彼岸の頃は、太陽は真西に沈み、満月は真東から上るが、この詩はたんに北信濃の春の夕景を詠んだ「朧(おぼろ) 月夜」の一節であるらしい。年配の方なら誰しもが思い描く一昔前の日本の風景である。
 当時はどこにでも広がっていた菜の花畑やレンゲ畑が、日本の春を今よりもっと華やかに、もっと長閑(のどか) に彩っていた。
 今にして思えば、そんな中で過ごした郷里の風景が懐かしい。
 当時の菜の花といえば、菜種油の採油用として栽培されていたアブラナの花であり、レンゲは牛の飼い葉用や田んぼの緑肥として栽培されていた。ところが近年では、両者とも観光用として植えられている程度でほとんど見かけなくなり、いつのまにか日本の春景色はすっかり変わってしまった。
 そこで俳句界においては「菜の花」といえば今は野菜の花すべてを対象として捉(とら) え、春の季語として扱っている。
 食用油としての種を採ってしまった後の菜種殻は、焚(た) きつけ用として軒下(のきした) などに保存していたが、子供の頃はこれを竹竿の先に巻きつけてホタル狩りに出かけた。利用できるものは何でも利用し、自然リサイクルを当たり前としていた時代は、日々の生活にも素朴さがあった。

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