春もみじ

 雨に芽吹き、光に育ち、風に膨らむ若芽たち。これからの季節の表現としては萌ゆる季節、初々しい季節、瑞々(みずみず)しい季節とでもいうのであろうか。
 やがて山々は、霞(かす) んでいるようにも微笑(ほほえ) んでいるようにも見えてくる。いわゆる「春もみじ」である。
 春もみじとは新芽達の薄緑から深緑、黄色っぽさから赤っぽさなど様々な淡い色が山を染め、雪洞(ぼんぼり)のように柔らかく浮き上がって見える光景をいう。萌黄(もえぎ) 色とか浅葱(あさぎ) 色と呼ばれることもある。
 朝日や夕日の角度によって表情を変えるその姿は、秋の紅葉ほどの派手さはないが、しっとりと心を落ち着かせ、ほんわかとした何ともいえない味わいがある。洗練されたプロ好みの景色というのかもしれない。そのためか絵や写真の愛好家達はこの春もみじを求めて〝隠れ景勝地〟へと向かう。
 また、この季節は万緑爽快な季節への序章であり、ひと雨ごとに逞(たくま) しさを増す彼らの生命力に感動する。
 「山紫水明(さんしすいめい) 」とは山は紫にかすみ、川は澄んで清らかという意味であるが、この言葉から山が萌える春の景色を連想するのは私だけであろうか。
 新芽たちの逞しい活力と溢(あふ) れんばかりの精気を浴びに出かけるなら、この季節に限る。

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