菜根譚

 「すぐれた人格によって得た地位と名誉は山野に咲く花、功績によって得た地位と名誉は鉢植えの花、権力に取り入って得た地位と名誉は花瓶の花」
 これは、中国古典の随筆集「菜根譚(さいこんたん) 」の中の花三態である。菜根譚とは明代の洪自誠(こうじせい) が自然の趣や人世の真理、処世訓などを綴(つづ) ったものである。
 菜根とは文字通り野菜の根であるが他に粗食という意味がある。堅(かた) くて美味(おい) しくないものであっても噛みしめてみてこそ本当の味が分かるものであり、人もまた窮地(きゅうち) に立たされた時にこそ本当の真価が試されるという意味を含んでいる。
 即ち、この花三態とは、大地にしっかりと根を張ったものや地に足をつけて歩むものこそが本物であるという名言である。人の世というものは今も昔も大差はないのであろうが、それにしても人間社会を痛烈にえぐる凄(すご) いたとえである。
 山野に咲く草木花達も光や水を求めて互いに競い合うが、彼らは本然の性や出自から逸脱(いつだつ) することはない。人間のように人を傷つけたり、醜(みにく) い争いをすることもない。
 「菜根譚」は人の道を説く人生の書であるが、中国よりもむしろ日本の僧侶や著名人達に愛され読み継がれてきたとされている。
 理不尽(りふじん) なニュースが目立ち、日本人の魂(たましい) が失われてきたのではないかといわれる昨今においてこそ、見直されるべき書物なのかもしれない。

前の記事

四季の味

次の記事

春もみじ