木の芽どきは要注意

 桜吹雪が風に舞い、桜蘂(しべ) が大地を汚すようになると陽気が変わりはじめる。
 それまでは空がぼんやりとしてウラウラとした日が多かったのに対し、この頃からは空が澄み、清々(すがすが)しさの中にピリっと肌を刺すような日が増えてくる。春の気圧配置が少なくなり、大陸育ちの高気圧が北辺気味に日本列島を覆うことが多くなるためである。
 桜ばかりに目がいっていたが、よくよく見ると柿に山椒(さんしょう)、銀杏(いちょう) に柳などが芽吹き、枇杷の木などはびっしりと青い実をつけている。
 理由はよく分からなかったが、明治生まれの祖母からは何度となく「木の芽どきは要注意」と聞かされてきた。一般に木の芽といえば山椒の若葉のことであるが、この場合の木の芽時とは、草木全体が芽吹く季節を指したものである。
 近年ではホルモンバランスが崩れるためだとか、新生活によるストレスから心身の不調を訴える人が多くなるなどといわれているが、昔からこの時期は体調を崩す人が多かったのであろう。
 この季節は寒候期から暖候期への変わり目であり、特に虚弱体質の方などは陽気の変動に身体が順応出来ないことがある。それだけでなく、実際に若芽達の凄(すさ) まじいばかりの「精気」を感じることもある。
 昔の武芸者達は大樹の下で、その精気を受け取る修行をしたという話を聞いたことがあるが、この時期は時として身体を強(こわ) 張(ば) らせるほどの強烈な精気と鮮烈な空気に襲われることがある。

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