黒鯛

 めでたい席に欠かせないのは、色鮮やかな真鯛(まだい) と相場は決まっているが、かつての愛媛や高知では懐妊(かいにん)祝いに黒鯛(くろだい)(チヌ)を届けたという。その理由は定かではないが黒鯛は真鯛と違って沿岸に生息し、人とのかかわりが深かったためではないかといわれている。
 滋養(じよう) をつけて元気な赤ちゃんをという願いは、里の母親が娘の懐妊祝いに届けた鯉(こい) と同じであろう。あるいは男の子の誕生であれば、あの精悍(せいかん) な顔つきと凛々(りり) しさに海の男をダブらせて見たのかもしれない。
 黒鯛は環境に強く、繊細にして逞(たくま) しさがあり、生命力旺盛(おうせい) な魚でもある。逞しく生きよ!という願いも込められていたのであろうか。
 かつてチヌの海といわれた大阪湾も間もなく乗っ込み期(産卵期)に入るが、釣り人はあの強引な引き込みの葛藤と共に、体長五十センチを超える「歳なし」を狙って血を滾(たぎ) らせる。

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