季節の香り

 「春の味覚をお届けします」、「故郷の味を届けます」。贈り物と同時に添え書きされた心配りの一言には旬の味覚以上に心温まるものがある。
 私の場合も、この季節は毎年イカナゴの釘煮を親戚・友人等に発送するが、当初は「今年も瀬戸内の春を味わってみて下さい」という文言を書き添えていた。間もなく春が躍(おど) り、魚が踊(おど) る春がやってくるが、瀬戸の春は一足早い。光の春と若布(わかめ) 干しの風景の中で何とか無事に過ごしていることを思い起こしていただければという願いを込めてである。里の知人や親戚からも思いがけない時に季節便りが届いたり、郷里の産物が届くことがあるが、そんな時に思い出されるのは、あの日あの頃の原風景である。
 この季節であれば、そろそろあの土手には土筆(つくし) が顔を出したかな?あの山裾にはワラビが生え出すかな?などと想像する。そんな時は、やっぱり自分の原点はふる里にあるのかなと思う。
 電話にメールと便利な時代になったが、手間暇(てまひま)をかけ、文字を介してのやり取りには心通うものがある。季節が取り持つ縁も大切にしたい。

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