大地の片鱗

  空の上でお日さまがわらいました。「おやはるかぜがねぼうしているな。
  竹やぶも雪もふきのとうも、みんな困っているな。」
  
そこで南をむいていいました。「おーい、はるかぜ。おきなさい。」
 小学校低学年の教科書に載っていた工藤直子さんの「ふきのとう」という早春風景の文章である。
 日差しに眩(まばゆ) さが増し、空が明るくなるこの時期は「光の春」という言葉に代表されるが、実は土の中でも春への胎動が始まっている。ジャガイモの作付けにと畔(あぜ) の周辺を掘り起こすと、そこには「白根(しらね) 」と呼ばれる乳白色をした雑草達の根が瑞々(みずみず)しく息づいている。
 大地に育まれながらじっと自分の出番を待つその姿には、植物達の凄(すさ) まじいばかりの生命力を感じる。春の息吹(いぶき)とはこんなところにもあったのかと感動する。
 植物が冬眠状態から目覚めて成長をはじめるには一日の平均気温が五度以上、活動が活発化するのは最低気温が五度以上になってからといわれている。
 母なる大地という言葉があるが、春は一雨ごとに大地が大地たる片鱗(へんりん)をみせ、黒々とした土に活力が漲(みなぎ) ってくる。春の遅い雪国においても雪面の煌(きらめ) きが増してくると、眠りから覚めるように大地が広がり、やがて待ちわびていた芽吹きの季節を迎えることになる。

 

前の記事

遣らずの雨

次の記事

マラソン