遣らずの雨

 冬の雨は冷たく、陰気で寒い。
 降りみ降らずみの雨は夕暮れを早め、音もなく地面を濡らす。
 冬の雨は、身にも心にも重くのしかかってくるところがあるが、一方で「冬の雨は寒肥(かんぴ)に勝る」ともいわれ、植物にとっては恵みの雨となる。
 確かに夜来(やらい)の雨が上がった朝などは薄靄(うすもや)がかかり、しっとりと濡(ぬ)れた大地はほっこりとして黒味を増したように見える。雫(しずく)を溜めた冬芽達も心なしか膨らんだように思える。
 冬の雨は植物だけではなく海では牡蠣(かき)や海苔(のり)を育て、空気の乾燥する太平洋側には潤いを与えてくれる貴重な雨となる。
 「遣(や)らずの雨」という言葉がある。恋人や親しい客を引きとめるようなタイミングで降ってくる雨のことである。交通手段のなかった頃の冬の雨は、「今夜は寒いし、このまま泊って行きなさい」ということになったのであろう。
 あなたを帰したくありませんという情景に対して「遣(や)らずの雨」と名付けたのはいかにも日本的であり情緒のある言葉であるが、他にもっと深い意味もあったという。
 「雨の後には寒がつく」この言葉は、冬の雨の後は必ず寒くなりますよという意味で使用していた。

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