水仙郷

 たまには冬の感傷に浸(ひた)ってみるのもいいだろうと思い、自分探しを兼ねてふらりと淡路の水仙郷に出かけたことがある。
 道すがらにはキンセンカやミカン、菊畑が彩りを添(そ)え、冬ざれなどは微塵(みじん)もない光景が広がっていた。この季節の瀬戸内はニビ色の雲が立ち込める日本海側に比べると、とにかく明るい。水仙郷から遠望する大阪湾の海はつましく、ゆったりとたゆたっており、初(ういうい) 々しい笑みを湛(たた)えているかのようであった。
 水仙は夏に花芽を持ち、秋の優しい雨に変わる頃に休眠から目覚める。そして気温の下がる初冬になって蕾が膨(ふく)らみはじめ、冬覚めやらぬ寒さの中で健気(けなげ)な花を咲かす。
 水仙の原産地は地中海沿岸であり、ギリシャ神話には水辺の花として登場する。瀬戸内 もどこか地中海に似た雰囲気があるが同じ水仙でも綿帽子(わたぼうし)をかぶり、遠い春を覗き見るようにして咲く雪国の水仙は別名「雪中花(せっちゅうか)」という素敵な名前をいただいている。
 ところが水仙の花言葉は「うぬぼれ」、「自己愛」とある。花言葉はその花が持つイメージを大切にし、誰しもが納得出来るような言葉をあてていると聞くが言われてみればそうなのかなという感じもする。
 冬の小さな一人旅であったが冬という季節は他の季節では味わえない趣(おもむき)がある。

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