北っぽ

 いよいよ冷たい北風の吹き荒れる季節だが、和歌山の漁師さんの間には「北っぽは金になる」という言葉が残っている。  
 ラジオ番組の取材中に聞いた言葉であるが、「北っぽ」とは冬の季節風のことである。太平洋に面した和歌山では、昔は夏から秋にかけての出漁の際は、ウネリを伴った大波を極端に恐れた。
 吹走距離(すいそうきょり)の長い南風は波長が長く、エネルギーの大きい波を作る。その波は、沿岸に近づくにつれて白い牙をむき、轟音(ごうおん)と共に砕け散る。そんな時は、はるか沖合に台風が存在することが多く「海鳴り」とか「底荒れ」という言葉で表現された。
 それにひきかえ日本海からの「北っぽ」は、吹走距離が短いためにエネルギーは小さく、恐ろしいほどの波になることはない。いわゆる「表面波」と呼ばれる波であり、湾内や島陰(しまかげ)などでは何とか細々と漁になったということである。
 今は気象衛星やレーダーにより台風や雨雲の位置は一目で分かり、船足も早くなったが、気象情報などなかった頃は危険を承知で漁に出たり「一発大波(いっぱつおおなみ)」に遭って遭難することもあった。
 一発大波とは、千波に一波は現れるという通常の二倍にも達するほどの波のことであり、釣り人が波にさらわれる事故も多い。
 夏場の大波を恐れていた太平洋側にも、冬場になると「北っぽ」という可愛い名の言葉が残されている。

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