傘かしげ

 今はもう死語となってしまっているようだが、北陸地方をはじめ各地に「傘かしげ」という言葉があった。雨の日の路地で人と出会った時に、傘をかしげて道を譲るというものであり、江戸しぐさの一つとされる。
 この情景を思い起こす時、当時の日本人の素朴な人柄や清楚(せいそ) な立ち居振る舞いが浮かんでくる。言葉としても優しいが、その土地柄や温かな人情までが偲(しの) ばれる。
 司馬遼太郎さんは生前に、この国の行く末を色々と憂(うれ) えていたが、そこには失われていく恥の文化や謙虚さなど、人としての心根の部分に対してではなかっただろうか。
 この言葉は情景から察するに夏場の荒々しい雨ではなく、晩秋から始まる降りみ降らずみの時雨(しぐれ) の雨から生まれたような気がしてならない。
 北陸に限らず日本海側では、いよいよ「弁当忘れても傘忘れるな」の季節を迎える。

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