酒は熱燗

 若い時から日本酒党の私は「お酒は熱めの燗がいい…」である。冬の冷え切った身体に流し込む酒としては人肌では心もとない。
 貧乏性の私の場合は銘柄も大吟醸もへったくれもない。昔でいう二級酒を沸騰するほどの燗にする。喉にカッとくる熱燗は思わず咳込むほどであるが、五臓六腑(ごぞうろっぷ)に沁(し) みわたる最初の一杯がたまらない。日本人ならこれでなきゃーと思う。
 そこで酒の肴(さかな) である。炙(あぶ) った烏賊(いか) もいいが、落ち着いた雰囲気で酒を嗜(たしな) むなら日本料理に限る。池波正太郎さんの小説風にいうと「薄切りにした赤なまこに薄塩を馴染ませる。ほうじ茶にくぐらせたあとサッと水気をきり、大根おろしの合わせ酢と和(あ) える。後は柚子(ゆず) のへギ切りを散らし、好みに応じて唐辛子(とうがらし)をハラッとふればいい」といった具合である。
 「おはるが酒の支度をして現れた、うぅむ…旨い!
   秋山小兵衛は思わず舌(したつづみ) 鼓を打った。」(「剣客商売」)
 ある女性陶芸家から徳利セットを頂いた。長年愛用していると不思議なもので、盃の握り具合も感触もすっかり手に馴染み、他の御猪口(おちょこ)では酒の味まで不味(まず) くなるような気がしてくる。
 心のこもった盃で静かに手酌酒を傾けていると、冬という季節が至福の夜を演出してくれる。

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