懐石料理
「日本人は目で食事をする」といわれるが、特に色彩り豊かな懐石(かいせき)料理の見事さには、何度出会っても感動する。
その懐石料理の一つに、関西で生まれた「吹き寄せ」という料理がある。その名の通り色とりどりのもみじ葉が、木枯らしによって吹き寄せられた様子から生まれたといわれている。
吹き寄せ料理といっても晩秋に限ったものではない。四季折々の旬の食材を一皿に彩りよく盛り付けた料理であればよいそうだ。とはいえ、そこには季節感を演出する料理人のこだわりが見られ、まさに芸術品といえるまでに仕上げる。
素材の方でも「旬」のものが70%、「走りの物」と「名残(なご)りの物」がそれぞれ15%といわれ、ここにも季節へのこだわりが見て取れる。
こだわりといえばそれだけではない。日本では古くから昆布や鰹(かつおぶし) 節などから「ダシ」を取るのは当たり前であり、「旨(うま) み」というものにこだわってきた。ところが、外国においてはそういったものには無頓着であり、言葉さえなかったという。
日本人は味覚までが鋭かったという一例であるが、近年はこの「旨み」という言葉が認知され、世界語にまでなったと聞く。
また、日本料理や和菓子には、見た目や季節の情趣(じょうしゅ) だけではなく、風雅風趣まで取り込んでいる。「みぞれ」といえば大根おろし、「淡雪」といえば泡立てた卵白、和菓子であれば「落雁」・「柚子桜」・「水無月」といった具合である。
その他にも風情にちなんだものとしては、裏寂(うらさみ)しい松風の音という情景からの「松風料理」、季節風で浜辺に寄せられた貝にちなんだ「貝寄せ料理」などがある。
今や日本料理は世界から注目されているが、そこには見た目の美しさだけでなく、季節感からもてなしの心までが盛り込まれているからであろう。