鯖街道
福井県や岡山県には、今も「キョウトイ」という言葉が残っている。
「あの犬は〝きょうといで〟」といえば「あの犬は怖いで」という意味になる。
昔は若狭の海で獲れた鯖を京都まで運んでいた道を「鯖街道」と呼び、「京は遠ても十八里」と唄いながら運んだといわれている。徒歩での京都までの道のりは余りにも遠く、途中で追い剥(は) ぎや野犬に襲われることもあってとても怖ったとされている。
「きょうとい」の語源は、「京は遠くて怖い」というところから生まれた言葉といわれている。
鯖は「生き腐れ」といわれるほど足が早いために、当時は塩鯖にして内陸へと運んだが唯一鱧(はも) だけは別格であった。生命力の強い鱧は無塩(ぶえん)のままで遠くまで運べたために、いつの間にか海のない京都でハモ料理が有名となった。
東京オリンピックの際にフランスのシェフに新鮮な舌ビラメを届けると、これは「生きがよすぎる」とのクレームがついたという笑い話が残っている。パリも海から遠く、昔は鮮度のよい魚が手に入らなかったためであろう。
秋の鯖は脂がのっていて生サバであれば、きずし(しめ鯖)や棒寿司にすると口の中でとろけるほどに旨い。昔は秋ナス同様に「嫁に喰わすな」といわれたほどであるが、時代も流通も変わった今も、内陸では秋祭り用の塩鯖が欠かせない。