ありがとう

 「ありがとう」を漢字にすると「有難う」となる。日本人が誇る素晴らしい言葉であるが、「難が有る」というのであれば、本来の意味からかけ離れているように思える。
 ところが、その本来の意味とは「有ることが滅多(めった) になく貴重である」、「有ることが稀(まれ) で珍しい」ということになり、だから感謝をしましょうという言葉につながったというのである。
 例えば、今有る自分は計り知れない命の継承と偶然が重なって存在するのであり、今を生きていることに対して感謝をしなければならないですよということになる。
 日本人は農耕の民であったためもあるが、豊かな自然の中に生かされていること自体を「ありがとう」とし、感謝をしながら生計を立ててきた。
 外国から見ると、無宗教といわれる日本人がなぜあんなに礼儀正しく、勤勉なのかということが不思議だともいわれてきた。
 諸説はあるようだが、それをアメリカのルース・ベネディクトさんは日本文化を紹介した「菊と刀」の中で、欧米は「罪(つみ) の文化」、日本は「恥(はじ) の文化」であると分析している。欧米は神との契約を守らねば罪になるが、日本では神よりも世間の目を恐れてきたというものである。
 確かにそれを代表する言葉としては「村八分(むらはちぶ)」や「家から縄付きを出すな」であり、地域の和を乱す者はその土地に住めなかった。
 人に後ろ指を刺されず、恥をかかないためには、会津藩の「什(じゅう) の掟(おきて) 」のように「ならぬことはならぬものです!」、「卑怯(ひきょう)な振る舞いをしてはなりませぬ!」などの武士道的精神文化も育んできた。
 日本人は「ありがとう」や「感謝」だけの優しさだけでなく、内面的には矜持ともいえる毅然としたものを秘めてきたといえる。
 秋日和の中に咲く彼岸花を眺めていると、今を無事に生かされていることに対して「ありがとう」と囁(ささや) きたくなる。

 

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