囲碁の効用

 囲碁は遣唐使であった吉備真備(きびのまきび)によって日本にもたらされ、その後寺院や武家社会などを中心に広まり、やがてお城碁にまで発展したといわれている。
 当時城内では“たもと”のない着物は禁止されていたようだが、囲碁対局の場合は“たもと”が邪魔になるということで特別に袖なしの着物が許された。それが時代を経て現在の作務衣につながったとされている。
 「駄目」、「布石」、「捨石」、「盤石」、「黒白」、「大局」、これらは囲碁から生まれた言葉である。
 私ども「明石を囲碁の“まち”にしよう会」では、毎年五月五日(こどもの日)に、明石公園において「お城碁」をイメージした野天での「囲碁まつり」を開催している。
 囲碁をやる、やらないは関係なく、子供からおじいちゃん、おばあちゃんまでの多世代が楽しめるイベントを多数用意し、学生ボランティアや関係者を含めると千人近い規模のものとなる。
 その他に保育園・高校・大学・介護施設・高齢者施設・障害者施設等に出向き、囲碁をツールとした地域活動を行っている。
 そこで教育界や福祉界などから注目されているのが、囲碁の効用である。子供達には頭脳開発と学力向上に、高齢者にとっては健康寿命の延長と認知症の予防改善によいとされているからである。近年は囲碁を教科に取り入れる学校も増えているが、実際に囲碁をやる子供達は総じて成績がよいという。認知症の方でも囲碁を打つときはシャキッとして顔つきまでが変わり、嚥下障害(えんげしょうがい)が治ったとか会話が増えたなどの話も届いてくる。
 それだけではなく、囲碁には人が生きる上において必要なものすべてが含まれている。礼儀は勿論のこと集中力、注意力、判断力、決断力、忍耐力、創造力、応用力、感性などである。
 千変万化する盤上においては考え方の柔軟さが必要であり、最終的には局部的に大局的にあらゆる角度からものを見る目を養わなければならない。
 私の師匠は棋力アップをするには「考え方を変える」必要があると語っていた。社会においてもそうだが、つまりは自分の物差しだけで物事を計っていると「勝手読み」をすることになり、尺度を伸び縮みさせなさいという人生訓を含んだ言葉であったと理解している。
 人が人として成長するには知識や経験を広げ、柔軟なバランス感覚を養う必要があるが、人の世にはこの一手だけは絶対に譲れないという場面がある。場合によっては「捨石」という手段を選択しなければならないこともある。
 歳をとって頑固になるというのも、長年の失敗と成功をくり返してきた結果の信念なのかもしれない。
 日本では今、高齢化社会に伴って介護費と医療費の高騰が社会問題となっている。そこで私どもの会では企業に対し高齢者職員を対象とした退職後の趣味、認知症予防、健康寿命の延長などを兼ねての囲碁の勧めを提案している。
 囲碁は「人生の縮図」であり、「世界最高の知的ゲーム」である。
  「凍てし夜を 裂きて割打つ 碁石(いし) の音」(季香子)

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