赤とんぼ

 「♪夕焼け小焼けの赤とんぼ…」ではじまる「赤とんぼ」といえば、時代を超えて愛される三木露風(ろふう)と山田耕作によって誕生した心ふるわす日本の名曲である。
 この曲は郷愁を誘い、すんなりと心の中に染み込んでくるものがある。
 題名も内容もはっきりとは覚えていないが、罪を犯した主人公が牢の中で幼い日々の懐かしい故郷を回想する映画があった。その映画の中で流れていた曲がこの「赤とんぼ」であり、歌詞の内容と同じようなシーンを涙ながらに見た記憶がある。
 この歌詞は露風が函館のトラピスト修道院にいた頃に、故郷である兵庫県の龍野(たつの) を思い起こして書いたといわれている。彼は両親の離婚により人恋しい日々を送ったためか、誰しもが持つ心の風景へと誘う詞が多いような気がする。
 「桑畑」や「姐(あね) やは十五で嫁に行き」という遠くなった時代も全く気にならない。
 たつの市は日本のどこにでもあるような小さな城下町であるが、当時の龍野も初秋の風に赤とんぼが揺らめき、長閑(のどか) な秋景色を醸し出していたのであろう。
 赤とんぼはとにかく人懐(ひとなつ)こくて愛嬌(あいきょう)がある。前になり後になり、人にまとわりつくように飛び交う。歌詞のように竿先にも止まることもある。
 俗説を信じてグルグルと指を回し、真剣にトンボの目を回そうとしていた時代が懐かしい。

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