夕焼けの季節
日本人に「美しい夕焼けは」と尋ねると、大抵の人が秋と答え、実際に童謡詩歌などでも秋の夕景として讃(たた) えるものが多い。
清少納言も「枕草子」の中で「秋は夕暮れ夕日のさして山の端いと近うなりたるに…」と記(しる) している。
しかし、俳句の世界では「夕焼け」は夏の季語であり、秋の場合はわざわざ秋の夕焼けと注釈をつける。
自然を眺めることに関しては鋭い感覚で接してきた俳人たちが、季節感を誤ったとは万が一にも考えられないことである。
そこで、その原因を考察してみると、以下のようなことが考えられる。
・昔の八月(夏)は今の九月(秋)であり、夕焼けが目立ち始める季節にあたる!
・この時期は大陸育ちの空気が入り始めるために空が澄み、夕焼けがことの
ほか印象的に映るようになる!(昔は残暑も現代より短かったと思われる)
・太陽高度が下がって光が大気層を通過する距離(大気路程)が長くなり、
赤系統の色が鮮明になる!
・陽の入りの早まりと暑さからの解放感が心を落ち着かせ、夕焼けを感傷的
に眺めるようになる!
つまり新暦と旧暦の差が主な原因であり、夕焼けが心に沁みる季節は昔は夏、今では秋ということになったのではないだろうか。