「もういいかい」と「小さい秋見つけた」
「♪もーいいかい……まーだだよ 夏と秋と夏と秋が かくれんぼしている
いつもと青さが違ってる 空は高くて鰯雲(いわしぐも)
風もなんだかよそよそしくて……」
作詞は「さざんかの宿」でお馴染みの吉岡治さんであるが、気象関係者でもここまで鋭い目で秋口という季節を観察している者はない。
秋の訪れは春のように爆発的にやってくることはなく、「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」である。
朝晩の熱気の衰え、どこか違ってきた風の匂いなど、人の五感をくすぐりながらやってくるのが秋の訪れである。
冒頭の歌詞は、晩夏から初秋にかけての季節の移ろいを「かくれんぼ」にたとえ、詩人の感覚で捉(とら) えている。
吉岡さんの師匠にあたるサトウハチローさんの名曲「小さい秋みつけた」も、題名からして初秋の歌と思われがちだが実はそうではない。こちらの方は「呼んでる口笛もずの声」や「はぜの葉あかくて入日色」などのように、モズや赤い櫨(はぜ) が登場し、秋全体を描いた詞となっている。
季節の歩みというのは、二人の鋭い季節描写や抒情詩的表現のように、常に行きつ戻りつであり、四季を通していつから季節が変わりましたということはない。