七夕

 私の「七夕」は、今も夏休みの八月七日である。
 当時はまだ日本全国どこであっても、溢(あふ) れこぼれるような天の川が見られ、天の川伝説もまことしやかに囁(ささや) かれていた。織姫(おひめり)と彦星(ひこぼし)が天の川を隔(へだ) て、年に一度出会うという話には幼心にロマンを感じたものだ。
 朝露で硯(すずり) を擦(す) ると字が上手になり、願いも叶(かな) うといわれて、里芋(さといも)の葉に溜まった雫(しずく) を集めて短冊(たんざく)に願い事を書いた。その短冊はコヨリの代りに星の形をした野草で竹笹(たけざさ)に結(ゆ)わえた。
 ところがいつの間にか「七夕」は七月七日が一般的となってしまった。
 新暦と旧暦の使い分けが原因なのか、幼稚園や学校の都合なのか定かではないが、今では運動会までもが秋ではなく春になったところも多い。
 現役時代のラジオ対談で「ひな祭り」と「七夕」の日が近づくと、両者とも月遅れが望ましいと訴(うった) えてきた。新暦の三月三日(ひな祭り)といえばまだ寒いばかりで、花どころか雪が残っており、七月七日(七夕)は梅雨の最中(さなか)で星空が期待できないためである。特に春の運動会に関しては、あるテレビ番組の中でも違和感を覚えるという人が圧倒的に多かった。
 理由はともかく、子供達の情操教育や季節感を大切にするならば大人の都合ではなく、春休みであろうが夏休みであろうが、思い出作りとして登園・登校させてもやぶさかではないような気がする。
 夏休みに出かけた気象観測と木造校舎は、今も心の風景として鮮明に残っている。

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