梅雨明けを暗示する雷鳴が終わると、一斉に鳴き出す蝉しぐれが夏の到来を告げる。
 夏の思い出といえば誰しもが経験した蝉捕りであろう。虫捕り用の網などなかった頃は 竿先に輪っぱを作り、そこに蜘蛛(くも) の巣の糸を絡め蝉捕りに出かけた。
 私の育った田舎では小型のニイニイ蝉とミンミン蝉が多かった。蝉の声は夏の映画シーンには欠かせないが、涼しい納戸(なんど) でのうたた寝の中に聞いた「ミーンミンミンミー」という抑揚(よくよう)のある声は、今も原風景と共に耳の奥底に残っている。
 当時は大きくて透明な羽根をしたクマ蝉が珍しく、躍起(やっき) になって探したが見つかった記憶はない。
 蝉の鳴き声で話題となったのは、文禄二年七月十三日に松尾芭蕉が山形県の立石寺(りっしゃくじ) において詠んだ「閑(しずか) さや岩にしみ入る蝉の声」の句である。この句に詠まれた蝉は、アブラ蝉かニイニイ蝉かの論争が起こったことがある。結果としては、詩の内容や蝉の時期からみてニイニイ蝉であったと結論付けられたが、蝉もまた近年は生息域が北上傾向にあるといわれている。
 地球の温暖化と生態系の関係が各方面で取りざたされているが、蝉についても例外ではない。
 「老犬に 添い寝して聴く 蝉しぐれ」(季香子)

前の記事

親潮と冷害

次の記事

「らしさ」